健康社会戦略研究所

研究所設立目的と概略

今般設立に至った「健康社会戦略研究所」は、健康関連職種に人文学的な視点も加えた研究と、成果の情報発信を目的とした活動のプラットフォームとして、社会貢献を果たしたいと考えている。
  • 本格的高齢社会のシステムづくりと災害に強いコミュニティ
    わが国の人口構造の変化が進み、いよいよ本格的高齢社会が現実化した。しかもこの進行プロセスは、欧米先進国の経験識を超えた速度で進行している。この社会変動は、現在、何よりも地域社会の現場において出現している。筋書きのないドラマと化した個別の問題解決には、従来の手法に寄りかからない柔軟な対応と、医療と介護に関わる関係多職種連携を確立したネットワークづくりが現場において必要となっている。ここから先は人類誕生以来初めての社会的事象と認識した上での、即効的な問題解決と中長期的な方針設定を同時進行的に確立することが求められている。部分最適化だけに頼らずに統計的にも全体像の推移を常に検証しながら対応する必要があるだろう。 この複雑系におけるシステムづくりには、災害時の対応の方法論、災害時総合調整システム(ICS)も参考になるだろう。すぐに結果に反映する救命処置や健康維持における多職種連携の確立のための方法論だからである。それに加えて、平時の多職種連携を強化することは、災害時に強いコミュニティ地域社会の対応力resilienceを底上げすることにもなる。
  • 問題先進地としての被災地の位置付け
    平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災において、地震・津波に襲われた岩手・宮城および福島県太平洋沿岸部の地域は既に高齢化率が高かった。被害は甚大で、行方不明者と震災関連死を含めると2万人を超える犠牲者数となった。それに加えて、福島県浜通り地域では東京電力福島第一原発での事故の続発により14万人超の避難命令が実行され、その風評被害まで出現した。事故が起こった原子力発電所の安定化が多くの努力の結集により維持され、汚染地域の除染も進んで帰宅困難地域が縮小してきている。健康に関する問題も同時進行している被災地の現状は、他地域においても緩徐に進行している問題がいっぺんに凝縮されて顕在化している状況と捉えることもでき、この国が直面している問題の先進地なのだと位置づけて考察することも可能ではないかと考えられる。
  • 災害後のいわき市の現状
    第2次世界大戦後において人口増加が起こり、東北地方の若年層が金の卵と呼ばれて就職列車によって首都圏に移動し、高度成長時代と呼ばれる復興期を支える役割を果たした。人口の伸びが止まった時には世界第2位の経済大国としての位置付けを得て日本は次のフェーズに入ったと考えられる。様々な大規模自然災害や感染症の猖獗そして戦争などの後には、このような人口増加パターンがみられるのだが、阪神・淡路大震災や東日本大震災などを経験した近年の災害復興期においては、人口増加の傾向が現れていない。復興策によって物理的な防波堤の強化や団地の嵩上げなどは実現していても、東日本大震災後の被災沿岸地域において、新たなにぎわいの創出や人口流入には至っていない多くの実態がある。 深刻な原発事故から南におよそ30km以遠に位置するいわき市は、首都圏から見れば原発事故の最前線に位置し、その悪影響を止める防波堤としての役割も担っている。地元の被災者に加えて避難地域から流入した自治体の避難民のための仮設住宅が建設されそれに続く復興住宅のみならず原発関連や除染作業に従事する方々のための居住施設も必要とされた。また、避難の長期化に伴い定住化した人口には学齢期の児童も含まれ、就学児童の増加が市内各所で顕著になっている。
  • 「健康」に優る「健康社会」という目標
    健康をキーワードにした提言は、福島県庁やいわき市役所から最近多く発信されている。この発想自体に問題はないが、各個人の健康の実現のみが注目されてしまう懸念も生じる。現状では、安全・安心を基礎とした健康の実現のためには、社会レベルにおいて健康を実現するための情報共有、医療と介護における多職種連携の構築それに保健と福祉にわたる施策など、地域医療community healthの観点からのアプローチが必須だからである。それは同時に、この地域を取り巻く周辺地域から世界レベルまでの誤った風評の払拭にも、地元住民の安心の確保から始まる官民合わせての活動が欠かせない。地域においてこのような健康社会の実現を図り、その中で各人が最大限の健康状態を維持するという恩恵を享受できることを、寧ろ目指すべきである。そのための方法論確立が極めて大切と考えられる。
  • 研究所活動の定点観測としての意義
    東日本国際大学の位置を地球規模で眺めれば、事故を起こした福島第一原発群に世界で最も近傍の大学であると見ることも可能である。しかもその負の影響からは、幸いなことに、免れた位置に存立している。従って、このポジションから見える様々な事象に注目しながら、問題の適切な分析と提言を行なう役割を果たすことは、今日的な研究活動として重要な意義があると言えよう。
お問い合わせ
窓口/担当 健康社会戦略研究所 事務局 松本梨奈
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