本学健康社会戦略研究所の設立記念シンポジウム「みんなのための健康社会づくり~東日本大震災からの真の復興を目指して」は11月30日、本学1号館201教室で開かれ、震災復興と社会、健康社会、救急医療など多角的な観点から市民の健康づくりについてアプローチしました。
同研究所は、地域の健康社会づくりのためのシンクタンクとして今年4月に設立しました。
医療界、地方自治体、地域のニーズに対応した調査・研究を行い、その成果を広く提言し、健康社会づくりのネットワーク化を図ることを第一の目的としています。

シンポジウムは設立記念として開催され、一般市民、医療・福祉関係者、学生ら約200人が聴講しました。
開会式では、石井正三研究所所長、共催の木村守和いわき医師会会長が医療を取り巻く現状とシンポジウムの意義などを交えてあいさつしました。




続いて、研究所客員教授である河合雅司先生、畑仲卓司先生、鈴木哲司先生がそれぞれ講演しました。
一番目の講演においては、河合雅司・人口減少対策総合研究所理事長が「震災復興と社会~人口論の観点から」と題し、日本における人口減少・高齢社会の問題と特徴を具体的に挙げ、今後国内の就業者数減少への対策として欧州型の自主都市、小規模町村でのエリアマネジメントの重要性などを述べました。



次の講演においては畑仲卓司・日本医師会医療安全推進者講座講師が「健康社会の目指すもの」のテーマで、これまで行ってきた福島原発事故や地球温暖化などの研究結果を基に、今後健康社会を作り上げていく上で必要となるものについて述べました。


最後の講演においては鈴木哲司・日本救急医療士協会会長が「救急医療から見た生と死」と題し、現代社会で死生観の教育が薄らいでいる問題点を提起した上で、これからの社会に必要となるであろう「死生観」「看取り学」の学問領域に関しても話を展開しました。


いずれの講演も各先生の専門分野からの現状分析をはじめ問題提起、そして課題解決に向けた提言で、今後の健康社会の実現に向けて示唆に富んだ内容でした。
午後のパネルディスカッションにおいては、研究所の石井所長をコーディネーターとし、研究所客員教授の畑仲卓司先生、鈴木哲司先生、長谷川学・環境省環境保健部環境保健企画管理課石綿健康被害対策室室長、高萩周作・いわき市病院協議会代表理事、大橋雅啓・研究所特別研究員(本学健康福祉学部教授)にそれぞれご登壇いただきました。







それぞれの発言要旨は次の通りです。
長谷川学先生:日本では出生数は90万人を切っており、確実に高齢化が進展する。地域の縮小化(崩壊)が進むが、どこかにモデルがある、あるいは国や行政に陳情するだけでは何も解決しない。自ら地域課題に住民が参加する社会でなければならない。
畑中卓司先生:これまで、政府が代わるたびに様々な国家観や国土計画を打ち出してきているが、この人口減少には対応出来ていない。これまでのような街づくりではなく、自助努力のコミュニティづくりの時代。これからの大学という点では、いわきFCは他のクラブチームと比較すると、とにかく走る練習が多いという。その結果が今回のJFLリーグへの格上げにつながったと聞いた。大学も何か一つ飛びぬけて挑戦するような取り組み、特色が必要ではないか。
鈴木哲司先生:過疎化は避けられない。個人の幸福感が重要となる。個人の幸福感が高まらなければ人を救うことも出来ない。心豊かな地域社会をつくるには個人が幸せにならないと。健康社会も同じこと。
また、生きるための教育が必要。例えば、防災は自助、共助、公助だが、実際の災害では自助、生きる力をどれだけ強くするか、がこれからの若者に課せられている。
高萩周作先生:いわきでは超高齢化問題が深刻で、平野部ではなく山間部での独居高齢者が問題となってきている。通院、買い物の不便さだけでなく、今後は認知症の増加が予測される。どのように対応するか。医療体制でも医師不足から急性期医療は難しく、慢性型疾患であればそこそこ対応できるが、心臓や脳梗塞などの急性期医療は対応できていない。福島や茨城の大学医学部から、遠い地域で辺境の地。大学の力にも頼れない。ネットワークで乗り切るしかない状況。
大橋雅啓先生:広野町と本学ゼミと関わりを持っている。人口4,000人で高齢化が急速に進行する町で、若者誘致の打開策として様々なイベントをするが、若者定住には結びついていない。役場職員が疲弊している。
一方で、町民ではない原発作業員が3,000人も暮らしている。流動人口といえる。このような現状、問題が復興をめざす町には残されている。相双地区の精神医療が崩壊しており、いまだ800人近い人が他の県の精神病院に入っている。精神障害者の地域移行とはいうが、施設を充実するにも医療の問題と切り離せない。いわきの精神医療の充実を図ることが、福祉の充実にもつながる。
石井正三所長:いわき市は様々な医療上、生活上の課題を抱えている。かつて日本医師会で、学校で隣にいる人を助ける教育、というのを文科省にも働きかけたことがある。救急的な対応を学校教育のなかでも小さい時から取り入れる、生命の大切さを知る教育が、実は防災にもつながる。
大学として地域の健康をこれからも考える上で、何か飛びぬけた挑戦が必要。この研究所もそのようなところで意味がある。今後も様々な地域の健康のための議論をしてまいりたい。
上記の議論が展開され、パネルディスカッションをとじました。
また本日講演をしていただいた河合先生、畑仲先生、鈴木先生への御礼として、いわき市医師会 木村守和会長よりフタバスズキリュウを模したネクタイピンの記念品が贈呈されました。


最後に、閉会式において東日本国際大学 吉村作治学長、学校法人昌平黌緑川浩司理事長がそれぞれあいさつと御礼の言葉を述べ、盛況、成功裡のうちにシンポジウムが閉会しました。



